となりの専務さん
告白の事情
そうはいっても、思い出すと体が震える。
凛くんの力、すごかった……。
凛くんが自らやめてくれたからよかったけど、もしそうじゃなかったら絶対に……。

少し考えただけで身震いした。


……専務と話したい、さっきまでそう思ってたけど、なんだか会いづらくなってしまった。
だって私のことだ、絶対に顔に出てしまう。


専務は、もうすぐ帰ってくるだろう。
私は電気を消して、寝たふりをすることにした。

実際に布団に入り、目を瞑る。
でも、そうするとさっきのことが脳裏に浮かんで、すぐに目を開けた。


数分後、誰かが廊下の階段を上がってくる音が聞こえた。
すぐに、専務の部屋の玄関が開く音が聞こえ、専務の部屋の電気が点き、カーテンの隙間から若干、私の部屋に電気が漏れた。


休日だし、さすがに今の今までずっと仕事してたってことはないよね。
誰かとご飯でも食べてたのかな。
……ハヅキさん? それともべつの人?
それかべつの用事があったとか?


……いろいろ聞きたいことがある。
ううん、本当は、ただ話したいだけ。

話したいけど、今は話せない。


部屋がつながってるから、余計に会いたくなるのかな。寂しくなるのかな。

凛くんは部屋を交代しろって言った。

凛くんの意見は正しいと思う。お父さんやお姉ちゃんだって、この部屋の壁の穴のことを知ったら、きっと凛くんと同じことを言う。


でも私は……


ーーこの部屋にいたい。


家柄も容姿も特別感も。なにもかもハヅキさんに勝てないなら、せめて。

せめて、



専務とふたりだけの秘密の時間を、あと数日だけでも過ごしたいーー……。
< 131 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop