となりの専務さん
「それは、ダメです……っ」

それは、専務の夢の、専務の人生の、ジャマになってしまう。
専務がなんと言おうと、専務の負担になる存在にだけはなりたくない。


私は、自分がそう思っていることを、今度は素直に専務に伝えた。



「……じゃあ、やっぱり別れるしかない?」

専務が私に問いかける。問いかけるってことは、私に選択肢をくれているってことで。


「……はい。ごめんなさい」

自分の気持ちを伝えることはできたけど、それでも私の考えは変わらない。

専務のために、専務と別れたい。たとえ、専務が嫌だと言ってくれても。私は、別れる。


……私の本心はどうあれ、私の意見に首を縦に振ると言っていた専務だったけど、

「……そんな理由なら、別れたくない」

そう、言ってくれた。
それでも私の気持ちは変わらない。

別れようと、思う……。



「……」

専務は黙りこんだ。
でも、私の意見を否定することもなかった。
……私の一方的な意見を受け止めようとしてくれているのかもしれない。


そして。


「……もう一回だけ、聞くね」

「え?」

専務はふんわりと私を正面から抱きしめてくれて。


「専……?」

「……俺と、結婚してくれませんか?」

「え……?」

「借金、すべて返してあげる。俺は、自分の夢とか自分の人生よりも、君といっしょにいることを優先したいと思ってる。それでも、ダメですか?」

ーーああ。私、世界一幸せ者だなぁ。


そして、



「……ありがとうございます。



でも、ごめんなさい」


世界一、ひどい人間だと思う。
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