となりの専務さん
「……わかった」

専務はゆっくりと私から離れた。



世界一ひどい女。

それはわかってる。


……ならいっそ、




もっとワガママ言ってもいいですか?


「私っ、絶対借金返して、専務にふさわしい人間になります!」

突然の、専務にとって予想外だったと思われる発言に、専務は目を丸くして私を見た。


「あっ、でも決して、だから待っててほしいってわけじゃないです! 何年かかるかわからないし、その間にほかに素敵な女の人がいたらその人と……。


でも、私はきっとずっと専務が好きです。
借金を自力で返して、仕事もがんばって、いつか絶対、社長に文句言わせないくらい立派な人間になります!

……もしそうなれた時に、専務にほかに好きな女性がいなかったら、私のことをまた、恋愛対象として見てくれませんか……?」


本当に、ひどいワガママだと思う。


待っててほしい、

そうは言えないけど。


何年か先に

専務に恋人がいなかったら。好きな人がいなかったら。

ほんの少しでいいから、私のことを思い出してもらいたかった。



私のこのワガママを、専務はどう思ったかな……?


不安になって、一度うつむき。
でも、もう一度顔を上げると。



ーーちゅ……。


専務の唇が、私のおでこに触れた。



そして。


「わかった」

そう言って、専務はやさしく笑ってくれた。でもその笑顔は、それまで見たことのない、切なさにあふれた笑顔だった。それでも、専務は笑ってくれた。
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