となりの専務さん
「なんか……信じられない」

ずっと早く完済したかったけど、こんなに早く借金生活が終わるなんて。

さっきから、長野のおじいちゃんおばあちゃんの家のこたつで明細票を見つめながらずっとぼーっとしている。


お姉ちゃんは言った。

「壺のおかげも大きいけどさ、でも、広香がすごいがんばってくれたおかげだよ」

「そんなこと……」

私だけががんばったわけじゃない。壺のことは置いておいても、お姉ちゃんだってお父さんの看病しながら、仕事を見つけ、働いてくれてた。お父さんも、最近は体調がよくなって、できる仕事をしていた。

それでもお姉ちゃんは。

「一番がんばって働いてくれたのは広香だよ。ほんと、あんたはいつも自分のことを犠牲にしてでも家のことを考えてくれて……」

そう話すお姉ちゃんはなんだか涙ぐんでいて。
普段めったに泣かないお姉ちゃんの涙を見て、私も泣きそうになってしまったけど、

「私、べつに自分のこと犠牲にしたりなんてしてないよ。家族のことが一番大切だからだよ」

泣くのは堪え、私はそう答えた。


……だけどお姉ちゃんは。


「…….犠牲にしてくれたじゃん。響さんとのこと」

お姉ちゃんはとても申しわけなさそうな表情で、その名前を出した。


……専務と別れてから元気のなかった私の様子に、お姉ちゃんは電話越しにすぐに気づいてくれた。

本当のことを話したらお姉ちゃんに心配かけてしまうと思って話すのをためらったけど、お姉ちゃんはやさしく『話していいよ』と言ってくれたので、私はお姉ちゃんに甘えて、専務と別れたことをお姉ちゃんに泣きながら話した。……ついでに、壁のことも(それに関してはなんで黙っていたんだと怒られたけど)。
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