となりの専務さん
化粧品の会社なんだし、キレイな人がたくさん働いているのはむしろ自然なことなのかもしれない。
だけど、自分はお世辞にも「キレイ」なんて言えるタイプじゃない。背は低いし、童顔で、この間、なんと中学生に間違われて驚きだった。
こんなちんちくりんな私が、こんなにキレイな先輩たちといっしょに無事に働いていいんだろうか……なんて思った。


「……いや、それ以前に明日には専務によってクビになるかもしれないんだけどね……」

「ん? 広香、なにか言った?」

「あ、ううん……」

私の小さなひとりごとを若干キャッチした大樹くんには、「なんでもないよ」と返した。


「それから」

月野さんが話を続けたので、私は俯いていた顔をパッと上げた。

「あそこの窓側のデスクにいるのが、古谷(ふるたに)係長よ」

月野さんの声に気づいたその人――古谷係長は、一瞬だけ顔を上げて、軽く笑って私たちにペコ、と頭を下げると、またすぐに視線をデスクに戻した。
三十歳前半くらいの、細身でやさしそうな男性だった。


「ほかの人たちはみんなバタバタしてるし、五時になったらゆっくり紹介するから、とりあえず紹介はこのふたりだけね。
それから、悪いんだけど私も今からミーティングに参加してこないといけないの」

デスクの上から資料らしきものを用意しながら、月野さんが言った。


「は、はい、わかりました。
わ、私たちはなにをしてればいいですか?」

「う~ん。じゃあ、いきなり雑用押しつけるみたいで悪いんだけど、伝票に印鑑押しといてもらってもいい?」

そう言われ、私と大樹くんは室内の一番隅のデスクにふたり向き合って並び、その作業をすることになった。
これから使う新品の伝票に、『株式会社 コスメチア』というゴム印を押していく、という簡単な作業だった。伝票の量はたくさんあるけれど。
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