となりの専務さん
その後、さっき月野さんが言っていた通り、五時になると商品企画部の人たちが部署に戻ってきて、自己紹介をさせていただいた。
部長、次長、先輩……みなさん優しくていい人そうだった。みなさんとうまくやっていけたらいいな。


その後は、月野さんから「定時過ぎたし、今日はもう帰宅していいよ。仕事は明日から教えるね」と言っていただいたので、私と大樹くんは揃って部署を出た。



「ねえ広香、せっかく同じ部署になったんだし、今日はこのまま飲みにいかない?」

オフィスの長い廊下を歩きながら、大樹くんは私にそう言った。


「あ……えと、ごめん」

「ん? なんか用ある?」

「その……」

飲みに行くお金が……とか、この時間ならスーパーのタイムセールに間に合うから……とかは言えなかった。

それに、それよりなにより、今日はのんびり飲んでる場合じゃなくて、早く帰って“やらなきゃいけないこと”が……‼︎



「いいじゃん。行こうぜ。明日からがんばっていこうぜっていう気合を入れる意味でもさ!」

「えと……」

どうしよう。気持ちはすごく嬉しいんだけど……。
大樹くんはすごく天然で、たまに「え?」って思うことを言ったりもするけど、誰に対してもフレンドリーで、とてもいい人だ。私も本当は、いっしょに行きたい。


でも、やっぱり行けない。



「……ごめん」


だけど、そんな彼にだから、極力ウソはつきたくなくて。



「私、詳しくは言えないんだけど、あんまりお金なくて」

「え?」

「ご、ごめん。じゃあ私、更衣室行くから。また明日。ばいばい」

「? うん、また明日な」

私は大樹くんに背を向けて、通路を曲がり、更衣室へと向かった。

ごめんね大樹くん。何年先になるかわからないけど、いつかいっしょに飲みに行こうね……!
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