となりの専務さん
「……いろいろ聞きたいことがあると思うんだけど、なにから言えばいい?」

専務がそう言ってくれたので、私は、数ある質問たちの中からひとつ、真っ先に選び抜いて。

「なんで、専務だってこと言ってくれなかったんですか? 私、コスメチアの社員だってちゃんと言ってあったのに!」

と聞いた。


……いや、でももしかしたら言わなかったんじゃなくて、言えなかったのかも。なにか深い理由があったのかも。
……という思いもないことはなかったんだけど、


「言わない方が楽しいかなって」

…….専務から返ってきたのは、まさかのそんなお言葉で……。


「……私、専務のこと『やさしくていい人』って思っていたんですが……」

「え、ほんとに?」

私が言うと、専務は相変わらず表情ひとつ変えずにサラッとそう答えた。

「俺、自覚はないんだけど、昔から『Sっ気ある』って言われる」

「そ、そうなんですね……」

言わない方が楽しい、なんて言われるまでもなく完全にSっ気発言だ。でも、自覚はないって、自覚があるより厄介じゃないか。でも、そう語る響さんはやけに澄んだ瞳をしている。……どうやら本当に、自覚はないみたいだ。


「……で、実際に楽しかったですか?」

私がそう聞くと響さんは。


「会社で君の驚いた顔を見た時はおもしろかった。でも、こうして頭下げてハム持ってこられると……心が痛む」

と答えた。

痛む良心をお持ちなら、もっと早く痛めてほしかった……。
< 30 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop