となりの専務さん



ーー……

カーテンから漏れる朝日に目を細めながら、ゆっくりと体を布団から起こす。


会社、行かなきゃ。

そう、思う、けど。


……昨日までは、今日からの一週間またがんばれそう、と確かに思っていた。

のに。
いざ月曜日が始まり、会社に行く支度をしながら自分の姿を鏡で見ると、急に不安が襲ってきた……。



『ダサいよね』


月野さんと鹿野さんのあの言葉が、急に頭の中で何度も何度も聞こえてくる。


手が、ちょっと震える。
かっこ悪い、私。




……そんな時だった。



洗面台の脇の、簡単な化粧品をセットしてある木棚の上に昨日置いた、専務からいただいたアイシャドウが目に入った。



……そのアイシャドウに、そっと触れる。



……昨日一日、専務と過ごしていた時間が自然と思い出されるようだった。


デート、だったのかはわからないけど。結婚がどうのっていうのは本気にはしてない……けど。



……いっしょに買いものをして、服を選んでいただいた。髪もキレイにしていただいて、メイクも、していただいて。

あと、そのメイクの仕方も教えていただいた。



……自分に自信をもらった。


……私に必要なのは、あと少しの勇気かなと思う。



でも、その勇気って、いつ手に入るの?


……なにもせずに待っていたら、自然と手に入る?


……そう考えると、それは違う気がした。



メイクでたくさん勇気をもらった。

メイクで九十パーセントの勇気をいただたいたとしたら、あとの十パーセントは?



……私次第?
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