となりの専務さん
「ありがとうございますっ。大事にします」

アイシャドウのケースを、両手で胸の前でぎゅっと握りしめながら私がそう言うと、専務は私の顔を見て「あ」と、なにかに気づいたような表情をした。


「え、なんですか?」

「まつ毛になにかついてる」

「え?」

「俺がつけちゃったのかな。ちょっと目つむってくれる?」

そう言われ、私は「はい」とそっと目をつむった。


……さっきも感じたけど、やっぱり男性の前で目をつむのはドキドキする。



そんなことを考えていると。




唇に、やわらかい感触がして。



……ん? まつ毛のゴミを取ってくれるんじゃなかったかな? なんて冷静に思ったのは一瞬で。



今の感触……もしかして……




キスされた‼︎⁉︎

私はばっと目を開けた。


すると。


「マ、シュ……マロ……?」

専務が、どこから取り出したのか、マシュマロを私の唇に押しつけていた。



「キスされたと思った?」

私はゆっくりと首を縦に振った。マシュマロが唇に押し付けられているから、うまく話せそうにない。


「キスの感触とマシュマロの感触って全然違うじゃん」

「だ、だってしたことないのでそんなのわからなくて……」

「君、本当に処女なんだね」

声のトーンこそ普段と変わらないものの、意地の悪~~い笑顔で楽しそ~~に専務は言った。

こういう時だけわかりやすい表情になるんだろうか。

……この笑顔にはさすがにドキドキしないです。というか処女で悪かったですね!!




その後、専務は『いつか勇気が万全になった時のために』と、私に今してくれたメイクの仕方とかコツとかを教えてくれた。




今日は一日、キレイな格好をして、気持ちが高揚した。

専務にも……いろいろ振り返ると……たぶん、男性として、少しドキドキしてしまった。言わないけど。ていうか言えないけど!!




今日みたいな服やメイクで明日仕事に行く勇気はまだ出ないけど……明日は、いくらか自信をもって仕事に行くことができそうだ。


そんなことを感じながら、その夜は眠りについた。
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