エリート上司と秘密の恋人契約
「ちゃんと前を向いて歩かないと危ないから」


「ご、ごめんなさい」


私の顔は、諸橋副課長の胸に衝突した。まさかこちらを向いていると思わなかった。ぶつかった瞬間に顔をあげると、すぐ近くに諸橋副課長の端正な顔があり、一瞬胸が高鳴る。

180センチはあると思われる高さだと、身長157センチの私が見上げても顔がぶつかることはないけど、息はかかる。それと、終業後でもまだ香る柑橘系の匂いに諸橋和真という男を初めて意識した。

上の階にいる人だし、一緒に仕事もしたことがない。もちろん、言葉を交わしたことも思い出す記憶の中にはない。

でも、オフィス内で、特に女性社員の間では、有名な人だから顔と名前は知っていた。

諸橋副課長に対しての噂はかなり多い。全てが本当かは私の知るところではないが。

どんな噂かというと……

まず仕事が出来る。だから、若いのに副課長という役職についている。

顔がよい。だから、モテる。

愛想がよく、人当たりがいい。だから、人に好かれる。

来るもの拒まず。だから、女に不自由はしていない。
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