お帰り、僕のフェアリー
「ティエリーおじさま、セルジュに似てる……」
静稀がそう言ったので、
「文法が逆だよ、静稀。僕が伯父に似てるんだよ」
と、日本語で指摘して、静稀に言い直させる。

静稀のフランス語は、本人の言ってた通り、読み書きのスキルに比べて会話はつたなかったが、まあ、なんとか意志疎通はできたようだ。
一生懸命伝えようとする静稀の姿勢がまた、伯父に好印象を与えたようで、僕は安堵した。

その夜、最終の新幹線で、静稀は実家に帰った。

翌朝、僕と父は結納の大荷物を抱えて、伯父を伴い、新幹線で静稀の実家を訪れる。
宅配で送ることももちろんできるが、結納品は手持ちするものだ!との父のこだわりらしい。

ちなみに、30年前に父は手ずからフランスの母の元にも運んだらしく、伯父はその時のことをおもしろおかしく話してくれた。

フランス人の伯父にしてみれば、昆布やするめを紙細工で飾り付けたものを恭しくもらうことは、インディアンが煙管(きせる)を回すのと同じぐらい異様だったらしい。
今回僕の結納に来たがったのは、独特の儀式をもう一度見たかったことも大きいようだ……カメラのみならず満タンのバッテリーも準備して、伯父はやたらはしゃいでいた。

……Catherine(カトリーヌ)にも見せるんだよな……。


途中の駅から、仲人をつとめてくださる元外務大臣がご夫妻で合流してくださった。
……元大臣は夏の選挙には出ず、政界を引退されたが、忙しいことに変わりはなさそうだ。
本来なら、仲人が両家を往復して結納の品を受け渡してくださるのが本式なのだが、なんせ、僕と静稀の家は新幹線を利用しても3時間以上かかる距離なので、今回は静稀の家に集うことになった。

11時ちょうどに、僕ら一行は静稀の家に到着した。
迎えに出てくださったひろさんに挨拶もせず、黙って、お邪魔して、無言のまま座敷に通していただく。
やはり無言で座ってらっしゃるご家族と静稀に会釈だけして、父と僕はせっせと結納品を床の間に飾り付けた。
既に父からレクチャーを受けてはいたが、品数が多いためなかなか大変で、ようやく飾り付け終わった時には、僕は汗だくになっていた。

元大臣がおもむろに口を開き、結納の目録を取り交わしてゆく。
伯父は、準備していただいていた椅子にはほとんど座らず、嬉々としてカメラを回していた。

静稀の振袖は、見合いの時とも、二十歳(はたち)の時とも違っていた……いったい何枚作ってらっしゃるんだろう。
おじいさまとお父さまは紋付きの羽織袴、お母さまはやわらかい色合いの色留袖を着てらっしゃった。

僕と父と伯父と元大臣はモーニングコート、ご夫人は黒留袖。

とても美しい装いで集い、美しい言葉の約束と、美しい贈り物を交わす。
厳(おごそ)かで楽しいこの風習を、近来省略してしまうことが多いらしいが、もったいない!
僕らは終始笑顔で幸せに浸った。
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