お帰り、僕のフェアリー
一通りの儀式を終えた後、ひろさんがお膳を運んでくださる。
途中から静稀も手伝って準備を整えてくれた。

歓談しながらの昼食。

元大臣、特にご夫人は結納の品々に興味津々のようで、お膳を平らげると、すぐに床の間へ見に行かれた。
お母さまもご一緒に、真珠の首飾りやchevalieres(シュヴァリエール)、婚約指輪にはしゃいでらした。

静稀は、お飾りの高砂人形が気に入ったらしい。
「こんな風に一緒に笑顔で歳を重ねて生きていこうね。」
僕は、静稀の笑顔に誓った。

……わずかな心の痛みを抱えて。

その夜。
僕は伯父とともに芦屋の家に帰宅した。
……30分の時間差をつけて、静稀もやってくる。

僕らは伯父に促されて真新しいシュヴァリエールを装着した……不思議なもので背筋が伸びる気がした。

「これで、静稀も家族だ。いつでもフランスに帰っておいで。」
伯父は僕たちの手を握ってそう言った。

「でも、あの……本当にいいんですか?私まで、こんな大切なものをいただいて。」
静稀は、不安そうに伯父に尋ねた。

伯父は静稀に微笑んだ。
「静稀は、私の娘より、ずっとその指輪にふさわしいよ。自信を持って。」

伯父に他意はないことはわかっているのに、僕は一瞬自分が固まるのを感じた。
そんな僕を見て、伯父は続けた。
「静稀。セルジュはね、一緒に同じように育てた私の娘よりも、ずっとbon chic bon genreなんだよ。」

静稀は「genre(ジャンル)」を分野と思い込んで理解できなかったらしく、僕に目で訴える。
僕は取り繕いながらBCBG(ベー・セー・ベー・ジェー)について少し説明した。
伯父は、僕を「貴族的」と言いたいのだ。
昔から、おじいさまやおばあさまによく言われてたから……僕は貴族の精神そのものだ、って。

「私は、今でもセルジュこそが我が家の当主にふさわしいと思っているんだよ。なのに娘不憫さに、彼女に婿を迎えることにしてしまった。婿はすばらしい青年だが、セルジュの血が私達には必要なんだ。」

「血って!……Thierry(ティエリー)、僕は日本人だよ。」

「セルジュ、フランスは血統主義だよ。君が勝手に国籍を日本だけに限定しても、君が我が家の子であることは変わらない。」
伯父は珍しく厳しい顔をして、叱りつけるように言った。

……僕が日本に来てすぐにフランス国籍を捨てたことに対して伯父は本当は怒りを抱いていたらしい。

「優秀なデザイナ-、斬新なデザイナーは星の数ほどいる。でも決して貴族の心を失わない君はかけがえのない存在なんだ。」
伯父が僕の手を握りしめた。
「流行や変革に流されない、永遠に変わらない品格を大切に、これからも家族のために愛をこめてドレスをデザインし続けてほしい。君の頑固さがこれからのカトリーヌ達の心の拠り所となるだろう。」

さらに静稀の手を取り、伯父は6つの手を3人の中央で合わせた。
「すまないね、静稀。君にも重荷を背負わせてしまうが、頼んだよ。もし、私の娘が子を為せなかったら、君たちの子供に我が家を継いでほしい。」

「えっ!?」
伯父の言葉に静稀は白眼を剥いた。

「これで、4人……。」

静稀は、4人めの子供を請われてしまった(笑)
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