お帰り、僕のフェアリー
程なく、静稀は、東京公演のお稽古を始める。
一週間後に、静稀も僕も東京へ大移動。

どこでどう調べるのか、僕のもとにはフランス大使館からだけではなく、各種イベント・パーティーの招待状が届くようになった。
僕の興味をひく催しはほとんどなかったが、それでもいくつかには出席する必要が生じるらしい。
今まで一ヶ月半分の荷物にフォーマルウェア類が加わった。

静稀の東京公演が始まった。
初日の夜、僕は父から呼び出されて、夕食を一緒にとった。
……さすがにこの席に女性が現れることはなかったが、父が言いづらそうに切り出した。
「一度だけ、見合いしてくれないか?」

また、そんな話?
僕は、あからさまに嫌な顔をしてみせる。
「よくもまあ懲りずに……。」

「私もこんな話ばかり、嫌なんだよ。セルジュくんに疎まれたくないからね。可能な限りお断りしてるんだよ、本当に。」
父は、申し訳なさそうにそう言った。

「今回は?断れないんですか?」
「ああ。」
「誰の紹介?」
「……紹介じゃなくて、間に人を立てて、正式に申し込んで来られたんだよ。」

正式?
縁談にも、略式と正式があるのか。

「誰?ご大層だね。皇族でもあるまいし。」

父はため息をついて、続けた。
「皇室なら光栄なことだし、こんなにもお急ぎになることもないんだろうけどね。今回はかなり急がれているようだ。選挙前に何とかしたかったんだろうな。」

選挙。

「政治家?」
「ああ。」
父は、ワインを一口煽って、一気に言った。

「現外務大臣が、わざわざ私を訪ねて来られたんだよ。現法務大臣のお孫さんとセルジュくんの縁談をまとめたい、と。次の選挙までに。」

……はあ?
なぜ、僕なんだ?
意味がわからない。

「選挙後だと、ダメなの?」
なぜそこにこだわるのかすら、僕にはわからない。

「そりゃ、政権交代の可能性もあるし、組閣メンバーも入れ替わるだろ。自分に力があるうちに強引にまとめられるなら、それにこしたことはないんだろう。」
父が苦々しく答える。

確かに、外務省勤務の父が外務大臣に逆らえるわけがない。
それはわかる。
わかる、が……。

「なんで、僕なの?」

父は肩をすくめた。
「私にもわからない。でも、ここ数ヶ月でセルジュはすっかり省内では有名になった。大臣の耳に入ってもおかしくない。」

「それで、お見合い。」
「ああ。」
「断っていいんだよね?当然。」

父は、今夜何度めかのため息をついた。
「わからない。大臣は縁談をまとめて、自分が仲人をやる気満々なんだ。いずれにせよ、私にはとてもお断りできない。セルジュ君に任せる。」

「断るよ!」

弱腰な父に苛つきながら、僕はそう断言した。
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