美しいにもほどがある
黙ったままの男の口はだらしなく開いたままだ。
浴衣姿の3人の女子中学生は男をおびえた目で見つつも、怒りがすっかり消えて別の感情が彼を支配し始めていることに、慣れた安堵を浮かべている。

男と連れ立ってきていた友人が「なあ、もういいだろう」と肩に手をやり、元の道へ引き戻そうとした。
と、友人もポカンと口を開けて紗江子を見たまま、立ち尽くした。
「……めちゃくちゃ美人だな」
そうつぶやくのが精一杯というふうに声を絞り出し、凝視し続けた。

紗江子は芝居か、本心からか、恐縮しきった顔を崩そうとしない。かばってもらった友人は紗江子と
男たちを交互に見ては、所在なげに立っている。

夕方が夜へと闇を増し、あたりは客でごった返してくる。神社の中心へと続く参道に立ち尽くした紗江子たちの集団は、人の足の流れをせき止めている。
固まって動かない6人が、行きかう人びとの流れをせき止めている。

なんだ、なにごとだ、トラブルか、けんかか、物盗りか。

口々に言いながら足を止め、向かい合っていえるチンピラ男と、女子中学生をのぞきこんでいく人びと。
2人の男が黙って見つめる先にいる紗江子を目にした誰もが、足を止めた。
人だかりは見る間に雪だるまのように膨らんでいった。
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