腹黒司書の甘い誘惑
すると、鞄の中に入っているスマートフォンが震える。
電話か、と重い体を持ち上げて鞄をとった。
そして中からスマートフォンを取り出す。

画面を見てみると、着信は母親からだった。
どうせ「最近どう?」という内容だろうけど、出ないとまた間をあけて連絡してくるだろうから、仕方なく出る。

「もしもし。どうしたの?」

『あ、理乃。ちょっと最近どうなのかしらと思って連絡したのよ』

電話の向こうの母は陽気な声だった。

「普通だよ、普通」

わたしは溜め息混じりに答えた。
一人暮らしをしているわたしを心配して、こうして連絡をしてくれているのだということはわかっている。だけど。

『理乃は友政《ともまさ》と違って少し抜けているところがあるから、お母さん心配よ。友政は昔から一人で何でもできて頭もよかったから手がかからなかったけど。理乃は何をやっても駄目だったから……』

毎回聞かされるこの言葉に、わたしは苦い思いを抱く。
二つ上の兄、友政は運動も勉強も何でもできる子だった。
わたしは兄といつも比べられて、その場はへらへら笑っていたけれど、本当は劣等感でいっぱいだった。
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