腹黒司書の甘い誘惑
理事長は視線をそっと落とし、わたしの横を通りすぎる。
振り返って理事長の後ろ姿を見つめ、やはり優美で素敵な方だと改めて思った。

再び台車を押してガラガラと廊下を進み、中庭までやってきた。
真ん中には噴水があって、校舎側には花壇があるとても綺麗な庭。
中履きで通ることのできる屋根付きの通路を進むと、十字に道がわかれているところにたどり着く。
先を見てみると、右は体育館で左が図書館のようだった。

もう少しだ、と台車を押して丸屋根の建物に向かった。

図書館はグレーのシンプルな外装で、館内は広く綺麗で落ち着いている。

とても静かな空間だ。
幅のある通路を通り、本棚が並ぶ室内へと入るためにガラス張りのドアを開けた。

司書さんはどこにいるのだろう。
カウンターには誰もいない。
利用している人はいないみたいだけど、図書館という場所で大きな声を出して呼ぶのはまずい気がして、台車をドアの前に置いたわたしはコツン、コツン、とヒールの足音を響かせながら奥へと入っていった。
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