あるワケないじゃん、そんな恋。
俺の手から飼い犬を取り上げ歩きだす。

肩を落とした菅野の背中を、ぎゅっと抱きしめたい気持ちを抑えた。



「羽田、早く!」

「キャン!キャン!」


犬と一緒になって呼びやがる。
コイツらはホントに、どこまで俺をなめてるんだ。


「先行っていいよ!後から追いかける!」

(寒ぃから缶コーヒーでも買おう…)


そのつもりで、公園の外にある自販機へ向かおうとしたんだけど…。


「待って!どこ行くの⁉」


菅野が泣きそうな顔してジャンパーの裾を捕まえるんだ。
胸に抱かれてた子犬は、そんな菅野の顔を舐めようとする。



「ペソ!ノンッ!」


迫力に驚いて犬がビクつく。
飼い犬を一発で黙らせるなんて、やるじゃん、こいつ。



「怖ぇー飼い主!」


ハハハ…と笑う俺まで睨まれた。

機嫌悪ぅ…。

俺が何かしたのかよ。



「…お前も飲むか?コーヒー」


質問にハッとした顔する。
どうやら俺が何処へ行こうとしてたか気づいたらしい。


「……ううん、いらない…」


はらり…と手を解かれる。
そのまま俯いて黙る。



もう我慢できねぇ。



こんな菅野を抱かずになんておれるか!






…フワッと風を払って、菅野を抱くつもりだった。

なのに、奴は背中を向けてさっさと歩き出してる。



(またかよ…)



一瞬呆れた。

菅野との間は、一見ヨリが戻ったように思えても、実際の心の中はまだすれ違ったままなのかもしれない。

些細な言葉不足が生んだ結果を、俺達はいつまで引き摺ることになるんだろうか……。

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