あるワケないじゃん、そんな恋。
「菅野が風邪…⁉︎ 」


驚いたような声出してた。

門扉からこっそり覗く私に、気づく様子もないみたいだった。


「…忙しくなるのに弱りましたね。そうですか。分かりました。早目に出社します」


電話切って、暫くその場で悩んでるみたいだった。

スマホの画面と睨めっこして、でも、やっぱり何もしないで大きな溜息ついて。


「どうしたの?洋ちゃん」


……わざと声をかけたの。

さも初めて見かけたかのように。



「芹那か…」


ガッカリされちゃった。

初めてだよ。
洋ちゃんにそんな顔されたの。

だから、何だか頭にきてーー。


「困ってるなら助けてあげようか?」


ここで貸し作って、チャンスがあったら長年の想いを告白したい…と思った。


洋ちゃんは、私を妹の真帆(まほ)ちゃんと同じように思ってるから話してくれた。


「パートが一人風邪引いて仕事に来れなくなったって。年末前で忙しいのに困ってる……」



…さっき言ってた菅野さんって人のことだな…とピンときた。
だから、その人の代わりに働こうか?って言ったの。



「受験生にそんな事させらんねーよ!」


洋ちゃん、ソッコーで断った。
でも、私なら年内中は大丈夫だから…と押し切った。




……少しでも洋ちゃんの近くにいたかったの。

働く洋ちゃんの姿、見てみたかったから。



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