おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
え? と聞き返す間もなく。



「………っ」



私の唇は、トラによってふさがれた。



驚きのあまり、身じろぎひとつできない。



唇は触れ合ったままだ。


息もできない。


それなのに、トラの唇は離れていかない。



呼吸を止めて、全身を硬直させて、肩を縮めて、私はただ時が過ぎるのを待つ。



「…………」



永遠とも思えるほどの時間が過ぎたあと、トラはゆっくりと唇を離した。



でも、顔は近づいたままだ。


長い睫毛にふちどられたきれいな形の瞳が、すぐ間近でじっと私を見つめている。



ずっと一緒に暮らしていたけど、こんなに近くでトラの顔を見たことはなかった。


そのせいなのか、自分でも信じられないくらいに、胸が早鐘をうっている。




「…………っくりしたあ」



沈黙にたえきれず、私はそんな場ちがいで間抜けな感想を口にした。



トラの目が小さく笑う。



「目は覚めましたか? 眠り姫」



またおどけたように言った。



私は「ばか」と睨むふりをする。



でも、本当は、トラの唇がふれたところが、残された感触が、気になってしかたがない。



ばくばくと心臓が鼓動する。


顔が、頬が、耳が、あつい。



私はすうっと息を吸った。


すこし心が落ち着いて、言葉が出せるようになる。




< 165 / 190 >

この作品をシェア

pagetop