おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
共用通路を歩いて、いちばん奥の玄関ドアを開ける。


「あー、やっとうちに着いた」


私はどっと疲れを感じながら靴を脱いだ。


トラが「おつかれ」と笑ってリビングに入り、私のバッグをソファの脇に置く。

私がいつもそこに置くのを知っているのだ。


トラはそのままキッチンに入った。


「あ、ごはん用意してくれてるんだっけ。買ってきてくれたの?」

「いや、いま作ってる最中」

「えっ」


そういえば、香ばしいにおいが漂ってくる。

私はトラを追ってキッチンに入った。


トラはコンロの前に立ち、袖をまくった右手でトングを持っている。

フライパンの中には、茹で上がったパスタとオリーブオイルが入っていた。


「わあ、作ってくれてるの?」

「まあ、ただのペペロンチーノだけどな」

「わーい、トラのペペロンチーノ、最高だよね! ってか、トラも遅かったのに、ありがとう!」


トラが「どういたしまして」と笑いながら、左手でフライパンを軽々と返す。


「だって、遅くまで残業して、疲れて帰ってきてコンビニの飯とか、テンションだだ下がりだろ?」

「だよね。でもトラだって疲れてるのに」

「気にすんなよ、好きでやってんだからさ」

「わーお、トラ、まじでいいやつ!」


私は感動のあまりトラに抱きついた。



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