おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
「トラちゃんは自分でたくさんお勉強して、お利口さんですねー!」


私はトラの頭を両手でわしわしとかき混ぜながら、小さな子どもに対するように言った。

トラが面食らったように目を丸くして、それからあははっと笑う。


「おまえ誰だよ!」

「えー? 親戚のお姉ちゃんだよー?」

「は? おばちゃんの間違いじゃなくて?」


トラがにんまりと言い返してくるので、私はぎろりと睨みつけてやる。


「なに、誰がおばちゃんだって? 私はまだまだ『お姉ちゃん』ですけど?」

「二十代後半は立派なおばちゃんだろ」

「へえー、ふーん、じゃあトラもおじちゃんかー。おじちゃーん」

「おうよ、おじちゃんで結構。俺は若さにすがりついたりしないんだよ」

「わー、なにその言い方、むかつく!」


私は近くにあったクッションを手にとり、ぼすぼすとトラを殴った。


「いててて! こら、うさ、やめろ」

「謝るまで許さないもーん」

「あーはいはい、悪かったよ。ったく、お前はガキか」

「なになに? ガキ? あー、お前はまだまだ若いってこと?」

「どんだけプラス思考だよ!」


お腹を抱えて笑っているトラを見ていると、私まで笑えてくる。



なんだろう……すごく平和というか、穏やかというか。

とにかく、トラとの同居生活は、とても居心地がいい。

トラもそう思ってくれているんだろうな、というのが、顔を見ていれば伝わってくる。


この安らかで楽しい日々は、永遠に続くような気がする。



―――そう思っていたのに。



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