おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
*
「うー、さむっ」
秋物の薄手のコートの襟をかきあわせ、私は思わず呟く。
仕事に追われているうちに、いつの間にか季節は変わり、朝晩はずいぶん冷え込むようになってきた。
午後6時。
今日はいつもより早めに仕事が終わったので、まだ西の空が明るい時間に帰宅できた。
それだけでなんだか嬉しくて、足取りも軽くなる。
お気に入りのスーパーで晩ごはんの買い物もできたし、今日はなんだかツイてるな。
鼻唄でも歌いたいくらいの気分で、私はマンションへと足を速めた。
でも、エントランスが見えてきたあたりで、私は思わず立ち止まる。
「………なに、あの車」
マンションの前に、見慣れない車が停まっているのだ。
つやつやと光沢のある黒塗りの、見るからに超高級車。
「…………」
触らぬ神に祟りなし。
私は見て見ぬふりで通りすぎようとした。
エントランスに入った瞬間、超高級車のドアが開いたので、驚きでどきっと心臓が跳ねる。
運転席から人が出てきた。
私は思わずちらりと目を向ける。
真っ黒なスーツに白い手袋をつけた、いかにも『運転手』という風情の壮年の男。
顔はもちろん、強面。
運転手が後部座席に回り、うやうやしくドアを開ける。
―――やばい、絶対アレだ。
見ちゃいけない世界の人だ……!
あの後部座席から出てくるのは、一体どんな人物なのか。
もしかして、ハットを被って太い葉巻をくわえたどこぞの組長とか………。