おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―







「うー、さむっ」


秋物の薄手のコートの襟をかきあわせ、私は思わず呟く。

仕事に追われているうちに、いつの間にか季節は変わり、朝晩はずいぶん冷え込むようになってきた。


午後6時。

今日はいつもより早めに仕事が終わったので、まだ西の空が明るい時間に帰宅できた。

それだけでなんだか嬉しくて、足取りも軽くなる。


お気に入りのスーパーで晩ごはんの買い物もできたし、今日はなんだかツイてるな。


鼻唄でも歌いたいくらいの気分で、私はマンションへと足を速めた。

でも、エントランスが見えてきたあたりで、私は思わず立ち止まる。



「………なに、あの車」


マンションの前に、見慣れない車が停まっているのだ。

つやつやと光沢のある黒塗りの、見るからに超高級車。


「…………」


触らぬ神に祟りなし。

私は見て見ぬふりで通りすぎようとした。


エントランスに入った瞬間、超高級車のドアが開いたので、驚きでどきっと心臓が跳ねる。

運転席から人が出てきた。


私は思わずちらりと目を向ける。


真っ黒なスーツに白い手袋をつけた、いかにも『運転手』という風情の壮年の男。

顔はもちろん、強面。


運転手が後部座席に回り、うやうやしくドアを開ける。



―――やばい、絶対アレだ。

見ちゃいけない世界の人だ……!


あの後部座席から出てくるのは、一体どんな人物なのか。

もしかして、ハットを被って太い葉巻をくわえたどこぞの組長とか………。




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