草食御曹司の恋

運命の出会いを信じるか。

そう問われれば、俺は間違いなくYesと答えるだろう。
ただ、運命の出会いを活かせるかと問われれば、俺はたちまち言葉に詰まる。

小さな頃から、自分の容姿が異性の目に魅力的に映らないという事実には気がついていた。父親に瓜二つだと言われる顔は、お世辞にも整っているとは言い難く、いたって平均的な体型で目立って背が高いわけでもない。
ならば、中身で勝負だと意気込んでみたところで、子どもの頃から気がつけば機械いじりばかりしていたという俺には、女子が好みそうな話題も思い浮かばなければ、面と向かって話をすることさえ緊張して思ったように言葉が出ない始末で。
学生時代からの友人達(もちろん、ほぼ全員男だ)に言わせれば、俺は奥手中の奥手、草食系を通り越して、絶食系の男らしい。そのくらい、女性や恋愛に縁のない人生だった。


それでも、生まれて初めて“運命”を感じた女性に出会った。

出会いは、見合いの席だった。
まるで女っ気のない俺を見るに見かねて、両親が持ってきた縁談。
どうせ上手くいかないだろうと思いながらも、会うだけでもと足を運んだホテルで、俺は彼女に初めて会った。

淡いブルーの振袖姿の凜とした佇まいに、好感を覚える。
赤やピンクといった華やかな色味よりも、爽やかなその色が何より彼女らしいと今なら分かる。
密かにドキドキしながらも彼女に向き合い自己紹介をした。
鎮めようとしても勝手に高鳴る胸の音を悟られまいと、必死に微笑を崩さずに会話を交わす。平然と振る舞いつつも、やはり両親には伝わってしまうものなのか、隣に座る父親には目が合った瞬間に笑いを噛み殺したような表情をされた。

一目惚れなんて言葉があることは知っていたが、今まで一度も信じたことはなかった。でも、彼女に出会った一瞬で本当にあるのだと悟った。

しかし、俺の中に生まれて初めて芽生えた気持ちは彼女のひと言によって、すぐに封印されることになる。
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