【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「全くあの人はしょうがない……今日は大喜と二人で穂純に詳しい事を聞いて来ますから、ご飯は一人で済ませてくださいね」


「はい。いってらっしゃい」


呆れた顔で零さんの言動の一部始終を眺めていたタクは困ったように微笑み、そして私の頭をさらりと撫でて指先で髪を梳くと、零さんの後を走って追った。


「もー……ここ、会社なのに」


振り返れば、予想通りに私達のやり取りにニヤニヤする社員達。これは今日一日、からかわれる材料になるな。


ねぇ、少し前の私、信じられる?


仮面を被り、制服で子供の姿に化けて、なのに化けきれなくて煙草を吸っていた少し前の私。


零さんの言う通り、言ってあげたい。素直にならなきゃ幸せは逃げるよって、逆に、素直になれば幸せは溢れているんだよって。


その闇は自身が作り出している。その仮面は本当は自身を守ってはくれない。


大切な人達に、愛する人に出会ってその事を知った私は、あの時の私を救えるのかな。


答えはグレーゾーン。多分、私一人では救う事なんて出来ない。


だからきっと、愛する人に巡り会い、色んな経験を経て変わるのだろう。過去が何かの節で変わろうとも、きっと、何度でも。
< 196 / 211 >

この作品をシェア

pagetop