【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
《ずいぶん急だな……なんか金に困るようなことでもあったか?》


「ううん。知り合いのいる会社の社長さんの頼みだったし、条件が良かったから」


私が言葉を返すと、蒼次郎は小さな溜息をついた。何故私が蒼次郎に溜息をつかれなきゃいけないのだろう。私の事は、私が勝手に決める事じゃないのか。


《まあしょうがねぇな。美姫は人の頼みを聞いちゃうところがいいところだしな》


そう言って笑っている蒼次郎に、不快感すら感じてしまう私はどうしようもない奴だと思う。


《頑張れよ。ま、無理だけはすんな。そのまま就職出来るような環境だと良いな》


しかし、私を想う蒼次郎のその一言が、ようやく心に酷く突き刺さった。


きっと、私の硬い無感情の殻を、何とか罪悪感というナイフが容赦無く抉り付けたから。


蒼次郎はずっとそう。いつも私の事を思いやって気にかけている。なのに私は相談もせずにすぐ決める。


母親とその恋人の事だって言っていないし、就職すると考えていた事だって、進路を書くプリントが出された時に理由も告げずに報告しただけ。
< 35 / 211 >

この作品をシェア

pagetop