俺様当主の花嫁教育
「志麻ちゃん。ちゃんと持ってて」


私の前に膝立ちになった千歳さんの声に、私はハッとして顔を上げた。


「腰紐、結びにくいから」

「ご、ごめんなさい……」


慌てて、大きく息を吸って意識を集中させる。
千歳さんから注意を受けた袖の袂を、ギュッと握りしめた。


「最後の最後で体調不良起こしたって? ちょっと残念だけど、志麻ちゃん着物似合うようになったわね」


そう言いながら、千歳さんがグッと紐を縛る。
一瞬強く息をのんで堪えながら、私もわずかに微笑んだ。


「心配かけてごめんなさい。でもこの二週間、私、家で習ったことおさらいしてたから」


そう呟くと、千歳さんは笑ってくれる。
その反応にホッとしながら、私は顎を引いて姿勢を正した。


今日は西郷さんの結婚式だ。
式の開始は午後四時で、まだまだ十分時間がある。


私はあの後二週間、御影さんの稽古を受けずに過ごした。
やっていたのは、家でのイメージトレーニングだけ。
今更綺麗に着付けてもらっても、この間と同じ惨めな結果はもう決まっている。


「志麻ちゃんが来なかったから、寂しかったわ~」


真剣な顔で着付けてくれながらも、千歳さんの口調は軽い。
私も思わず微笑みながら、姿勢を保つのに精一杯だった。
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