俺様当主の花嫁教育
西郷さんの見た目は好みではない。
残念ながら、性格や考え方が合うわけでもない。


彼は根っからのおぼっちゃま育ちで、三十のくせに考えが甘い。
親会社の社長の息子という肩書きに守られているだけで、特に仕事が出来るわけじゃないし、正直なところ、頼れる男とは言い難い。


だけど、長い目で将来を考えて意識すれば、旦那様としてはハイスペックなのだ。


だから、そう。
西郷さんとは最初から結婚だけを願って付き合ってきた。
ドキドキも胸キュンも全くなかったけれど、彼からのプロポーズだけが目的で、それ以上はない。
さすがにプロポーズの瞬間だけはドキドキ出来るんじゃないか。
そんな思いで、この日を夢見ていた。


それなのに、なかなか核心に迫らない西郷さんに、焦れた気分になる。


「だからね。割と昔からのしきたりとかあって、ちょっと面倒臭いんだよね」


確かにそうだろうと思う。
彼の父親である親会社の社長は厳しそうだし、お会いしたことはないけど、母親だって割と想像出来る。


だけど、それが何か?


「結婚式は代々和装の人前式って決まってるし」


西郷さんの口から出た『結婚式』という言葉に、ドクンと鼓動が跳ねた。
ああ、これはやっぱり、いよいよ私も玉の輿っ……。


「さ、西郷さん。私は別に、そういうのこだわりは……」

「だからさ。悪いんだけど。今日が最後。別れて欲しいんだ」

「……は?」


勢い込んで腰を浮かしかけた私に、西郷さんはシレッと悪びれる様子もなくそう言い放った。
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