俺様当主の花嫁教育
悔し紛れに奥歯を噛みしめると、御影さんは畳の上で着物を広げ始めた。


「茶道だけじゃ意味がない。あらゆる日本文化を幾重にも積み重ねてこそ、真の和心を会得出来るんだよ」

「……」


不遜な言い方だけど、御影さんは一点の曇りもない日本文化人だ。
生まれ育った国を、その歴史を、文化を、心から崇拝して愛して向き合っている人。


この話題では、彼に太刀打ち出来ないことを、私もとうに理解してる。


「先週よりも、正座も我慢できるようになっただろ。着物での立ち居振る舞いもいくらか慣れて来ただろ。花や音を愛でて、楽しめるようになっただろ」

「っ……」


静かな声に、私との絶対的な距離を感じた。
選ばれし天上人と接しているような気分になる。


「……御影さ……」


そこに畏れを感じて、咄嗟にそう呼びかけた瞬間。


「ほら、さっさと脱げ」


突然口調を変えた御影さんに。


「……は?」


私はただ目を丸くした。


いきなり神様が私の前に落っこちて来たような、不謹慎なリアルを感じる。


「は?じゃねえ。いいから脱げ。着付け出来ないだろ」


聞き返す私に機嫌を損ねたのか。
シレッと声を返されて、一瞬頭の中が真っ白になった。


そして。


「……ええっ!?」


思いっきり大声を上げて、私はお尻をずらしながら御影さんから離れる。


「き、着付けって! なんで御影さんが!? いつものお弟子さんは!?」


私が上げた騒々しい声に、御影さんが不快そうに眉を寄せた。
< 50 / 113 >

この作品をシェア

pagetop