俺様当主の花嫁教育
御影さんを意識してる自分に気付いてしまった。
戸惑って動揺して、彼をまっすぐ見ることも出来ず、そばにいるだけでドキドキしてしまう私じゃ、とても稽古に集中出来ない。
御影さんが私の為に割いてくれた時間も労力も、全部無駄にしてしまうかもしれない。
そうして失望されてしまったら……。
そう考えるだけで怖くて、この気持ちがなんなのか、突き詰めて考えることも後回しにしていた。


こんな状況なのに、御影さんに頼みごとをしなきゃならないなんて。


それでも結局、私はエリカちゃんのお願いを断り切れず、その日、華道のお稽古を終えた後、着物のまま御影さんに会う為に茶室に向かった。


毎週水曜日の夜は、御影さんの茶道教室がある。
終わるのは確か九時のはず。
私は茶室の近くまで来て、御影さんの生徒さんが出て来るのを待った。
やがて、品のいい着物姿の女性が数人連なって出て来た。


お茶会もそうだったけど、御影さんのお点前に集まるのは、どちらかと言うと年配の女性が多い。
月謝も相当高いと聞いたし、本家嫡男主催の教室となると、生徒さんもそれなりに達人に近い腕前じゃないと入門出来ないということなんだろう。


そんな人に、私がお願いしようとしてることは、やっぱりどう考えても図々しい。
やっぱり止めよう……と踵を返しかけた時。


「……志麻?」


最後の生徒さんを見送るように、御影さんが戸口に姿を現した。
隅っこでコソコソ隠れていた私に気づいて、訝し気な声を発する。
その声に、ハッと顔を上げた。
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