俺様当主の花嫁教育
御影さんに指摘されて、私はハッとした。
プライベートで御影さんが西郷さんと対峙する。
それを彼が望むとは思えないのに。


「志麻の中間評価にはもってこいだ。お前が見返してやりたい男の反応、確認出来るいい機会だろ。それに……」


一度言葉を切ると、御影さんはとても悪い顔をしてニヤッとほくそ笑んだ。


「西郷の婚約者は、確実に俺に夢中になるだろうしな。西郷が歯軋りして悔しがる姿を観察出来るなら、へそで湯が沸かせるくらい愉快だ」


御影さんらしい言いように、私まで頬の筋肉を緩めてしまう。
けれど、心の中には意味不明な靄が漂い始めていた。


きっと、御影さんの言う通りになる。
西郷さんへの復讐にもなる。
そして、御影さんが愉快だと言うならそれでいい。


だけど……。
エリカちゃんは私よりずっとずっと大和撫子な女性だ。
御影さんはエリカちゃんにどういう印象を持つんだろう?
そんなことを気にして、私の心中は微妙にざわめいている。


「日程が決まったら、連絡しろ」


御影さんはそれだけ言ってスッと優雅に立ち上った。
それにつられて、私も視線を上げる。


私を見下ろす御影さんと一瞬確かに目が合った。
私は条件反射のように、顔を背けて視線を外す。


「お疲れ様」


私の反応を横目で捉えただけで、御影さんは相変わらず優雅に茶室を出て行った。
私は、その高貴な後ろ姿を、ただ見つめるだけだった。
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