君の隣
気付けば──理名は病院の屋上にいた。

 冷たい夜風が肌を刺す。

 視界は涙で滲み、街の灯りが揺れる。

 遠くで小さく光る車のヘッドライトが、まるで現実と夢の境界に漂うかのようだ。

胸の奥の圧迫感が消えない。

 呼吸は浅く、手先も震える。

 あの瞬間の絶望の重みが、まだ体に残っていた。

 理名の母親は、彼女が高校生に進学する春に、子宮頸がんで病死した。
 
父も、たった今、母のいる空の上へ行ってしまった。

ここから、飛び降りたら──。

 両親に会えるだろうか。

そっと、フェンスに手を掛けたその時──

「理名──っ!!」

背後から伸びてきた腕に、ふわりと優しく。

 けれど決して逃がさないように抱きとめられた。

 体温が伝わる。

 肩に落ちる額の重みが、震える胸に安心を送り込む。

 胸の圧迫感が、少しだけ緩む。

 呼吸は荒かった。

 きっと、全速力で駆けてきたのだろう。


「理名は、一人ぼっちじゃない。

 一人に……なんか、させない。

 俺が、お前の隣で、理名を一生支えてやる」

 肩を抱いたまま、拓実の額が理名の肩に落ちる。

 彼の体温が、心に染みた。

「……同棲しよう、理名」

 その言葉に──

 涙が、また一筋、頬を伝った。

 理名は深く息を吸った。
涙がまた一筋、頬を伝う。


 夜の空気が、少し柔らかく感じられた。
絶望と痛みの余韻はまだ消えない。

 拓実の腕の温かさが、心の支えになっていた。

 もう一度だけ、立ち上がる力をくれる──
 そんな夜だった。
 

 
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