君の隣
嗚咽で声が震える。

涙で視界が滲む。

 そんな理名の肩に、そっと温かい手が添えられた。

 振り向くまでもなかった。

 それが小児科医の先輩、岡崎麻未(おかざきまみ)であることが分かった。

 そのぬくもりが、かえって胸を締めつけた。

 ──そして、背後から駆け寄ってきた拓実が、理名を強く抱き締める。

 「理名……もう、十分だ。

 頑張った……」

 その拓実の腕の中で、理名は崩れ落ちた。

 そして次の瞬間──

 「……午後9時36分。

 岩崎隆文さん、死亡確認」

 その場に響いた、低く、けれどはっきりとした声。

 告げたのは、麻未の夫であり、理名の先輩でもある循環器内科医──栗沢慎也(くりさわ しんや)だった。

 沈黙。

 誰もが、その事実に息を呑んだ。

 理名の世界が、音を失った瞬間だった。

 
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