君の隣
その朝、台所には慎也の姿があった。

エプロンを身につけ、慣れない手つきでフライパンを振るう彼の背中。

 麻未は赤ちゃんを抱きながら、その様子をそっと見ていた。

「焦げてない?」

「ちょっと焦げたけど……食べられる範囲。

 たぶん」

振り向いて笑う慎也に、麻未も思わず笑った。

この日は、慎也の“育休初日”。

 
職場に相談し、数週間の休みを取ってくれたのだ。

「朝ごはん、できたよ。

 ……ほら、座ってて。

 まだ本調子じゃないんだから」

「ありがと。

 ……パパさん、初日、がんばってるね」

「パパさん、ビビってるけどね。

 沐浴とかミルクとか、ちゃんとできるか不安だし」

「……でも、いてくれるだけで、安心する」

そう言って微笑む麻未に、慎也は照れたように目を細めた。

「俺も、ちゃんと父親になるよ。

 今日から、毎日、隣で一緒に育ってく」

赤ちゃんが、小さくくしゃみをした。

 
< 100 / 216 >

この作品をシェア

pagetop