君の隣

明るい日々

ふたりで同時に振り返って見つめ合い、笑い合う。

「それにしても……この家に、こんな小さな人がいるの、不思議だな」

「ね。まだ、夢みたい」

「……でも、現実だよ」

慎也は赤ちゃんのほっぺをそっと指でなぞりながら、静かに言った。

「だってこの子が──きみとの愛の証なんだから」

麻未は何も言えず、ただそっと赤ちゃんの頭を撫でた。

そんな風にして、ふたりとひとりの──
“新しい家族の時間”が、静かに始まっていった。


生後一か月。

 お出かけにはまだ慎重な時期だけれど、赤ちゃんの健診も無事に終え、穏やかな春の午後──

「行ってみる?

 あの場所に」

麻未がぽつりとつぶやいた。

「うん。

 ……そろそろ、あなたにも会わせたいなって」

慎也が軽くうなずき、赤ちゃんを柔らかなケープで包んで抱き上げた。

行き先は──

 麻未が幼い頃を過ごした、児童養護施設『みのりの家』。
彼女の“原点”ともいえる場所。

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