君の隣
施設に着いたとき、迎えてくれた女性。

 かつての保育士で、今は施設長となった佐伯(さえき)さんだった。

「麻未ちゃん……!

 まぁ、まぁ……!」

笑顔で迎える彼女に、麻未は少し照れながらも頭を下げた。

「娘を……初めて連れてきました」

慎也が丁寧に頭を下げる。

赤ちゃんを抱きながら、麻未は敷地の奥、懐かしい木造の建物を見上げた。

 あの日見ていた空も、風の音も、なにも変わっていない。

「この子が、大きくなったら……ちゃんと話してあげたい」

「何を?」

「お母さんは、ここで大事に育ててもらったんだって。

 だから、あなたの“家族のルーツ”はね、思っているより、ずっと温かいんだって」

赤ちゃんが、小さく手を動かす。

それはまるで──「うん」と頷いてくれているようだった。

「あなたが生まれてきてくれたことで、またこの場所に戻ってこられた。

 ……ありがとう」

麻未はそっと赤ちゃんの額にキスをした。

涙ぐんだ佐伯さんが、ふたりの姿をそっと見守っていた。

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