君の隣
春の温かな風が吹く午後──

「じゃあ……行こうか」

 慎也がチャイルドシートに眠る“結”をそっと見やりながら言った。

「うん。

 ……緊張するなぁ」

 助手席の麻未が、少しだけ息を吐く。

産後2か月。

 赤ちゃんを連れての長距離移動は初めて。

 心配もあったが、何より麻未にとっては“家族”との新たな対面が控えていた。

──慎也の両親に、正式に会う日。

実家の門をくぐると、玄関先にはふたりの人影。

 柔らかな笑みをたたえた母・涼子(りょうこ)と、寡黙そうだがどこか優しげな父・慎一郎(しんいちろう)。

「おかえりなさい」

 そう声をかけた涼子のまなざしは、まっすぐに麻未へと向けられていた。

「……はじめまして。

 麻未と申します」

きちんと頭を下げる麻未の姿に、涼子はふっと目を細めた。

「来てくれてありがとう。

 ……そんな他人行儀にならなくていいのよ」

 「そうだぞ。
 堅苦しいのは慎也だけで十分だ」

 父・慎一郎も、照れたように笑って玄関を開ける。

和やかさが空気ににじみ、麻未の肩の力が少しだけ抜けた──

家の中へ通されると、慎也の母はすぐに赤ちゃんのもとへ。

「まぁ……この子が、私たちの初孫……」

その手が震えているのを、麻未は見逃さなかった。

「“結”っていう名前なんです」

 「綺麗な名前ね……。

 こんな小さな命が、私たちの家にやって来てくれたなんて」

涼子の声は、わずかにかすれていた。

その目元に涙が滲んでいることに、慎也が気づく。

「……お母さん」

「ごめんね……。

 ただ、本当に嬉しくて」

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