君の隣
理名×拓実②

手術と回復

翌日。

 手術室のランプが「手術中」の赤を灯したまま、
拓実は待合室の端で、ひとりで座っていた。

血液内科医として何度も経験してきた“待つ側の時間”だった。

 扉の中にいるのは、愛しい人。

 それだけで、全身の神経が張り詰めていくのを止められなかった。

──執刀医は、信頼している産婦人科医の朱音先生だ。
──理名の身体は、術前検査で大きな異常はなかった。
──出血のリスクも、術後合併症のリスクも、予測の範囲内。

理性ではわかっている。

 けれど、感情がついてこない。

「……お願いだから」

誰にともなく、そうつぶやいたのは、無意識だった。

 声が震えていた。

 彼女の手術を待つ数時間は、自分の心臓が掴まれているようだった。

手の中の指輪が、ほんのりと汗で濡れている。

理名の薬指にぴたりと合うリング。

 これからも、これからこそ、彼女の人生を支えるための、約束の輪。

「俺が、君をちゃんと守るから……」

祈るように、その言葉だけを心の中で繰り返していた。


そして、手術は終わった。


 
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