君の隣
病室の窓際で、外を眺めていた理名が、拓実に言った。
「今朝、夢を見たの。
……母が、ね」
「うん」
「高校の制服を着た私が、病院の玄関で母に手を振ってる夢。
あのとき私は、母に“ありがとう”も言えなかったのに……」
「……言えた?」
「うん。
夢の中で、“私ね、母さんみたいに医者になったよ”って言ったら、
母が泣きながら私のこと、ぎゅって抱きしめてくれた」
拓実は、そっと理名の手を取った。
「それ、ただの夢じゃないかもな」
「うん……私も、そう思う」
回復の5日目──退院前夜
ベッドサイドのスタンドライトが、優しい色に灯っていた。
ふたりでベッドにもたれかかりながら、理名は最後の夜を静かに過ごしていた。
「明日から、また日常だね」
「ゆっくり戻せばいい。
焦らなくていい」
「……うん。
今はまだ、“できないこと”が多いかもしれない──
きっと、ちゃんと取り戻せるって思える」
拓実は微笑んだ。