君の隣

決意

退院からちょうど10日後。

 理名は、院内の外来担当に復帰していた。

「明日から休みをもらうんだ。

 上から、そろそろ休め、って言われてさ。

 温泉旅館でゆっくり過ごしたい、って麻未が言ってたから」
 
外来中、スタッフにそう話す慎也の姿。

 ほんの一瞬のやり取りだったが、日常の中にほんの少しだけ安らぎを感じた。

 白衣の感触、電子カルテを開く指の動き、
患者の呼吸に耳を傾ける感覚──

 それらすべてが、自分の一部だったと再認識させられる日々だった。

けれど、昼休憩を過ぎた頃には、まだ下腹部の鈍い痛みと倦怠感がぶり返す。

「……無理、してないつもりなんだけどな」

スタッフルームの椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた理名。

「理名先生、午後の外来の前に、少しお時間いただけますか?」

理名に声をかけてきたのは、産婦人科医の朱音だった。

 朱音の声音は変わらず柔らかく、けれどどこか──
“主治医”としての表情を孕んでいた。

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