君の隣
拓実のスマートフォンが震え、着信を知らせた。

──病院から。

ディスプレイに浮かぶ文字列に、鼓動が一瞬止まる。

『三咲 朱音』

理名や拓実の大先輩であり、産婦人科医。

 なぜ、朱音さんがこの時間に──

 嫌な予感が、背筋を駆け上がった。

ICレコーダーの電源を切るのももどかしく、携帯を耳に押し当てた。

「もしもし、拓実です。

 朱音さん……ちょうどよかった。お話したいこ──」

『どこにいるの!?

 今すぐ病院に戻って!

 急患よ!』

突然、耳を裂くような声。

 普段は冷静沈着な朱音が、まるで別人のように叫んでいた。

『睡眠薬の大量摂取で意識混濁。
脈は……かろうじて取れる。
患者名、岩﨑 理名』

鼓膜を打ち破るようなその言葉と同時に、拓実の世界が音を失った。

──理名が……?

睡眠薬……?

呼吸が、苦しい。

 胸の内が急激に締めつけられる。

(そんなはずない……いや……)

「最近、眠れなくて……」

 あのとき理名は、笑っていた。

 「また、深月ちゃんに処方してもらったの?」

 そう聞いたときも、曖昧に頷いていた。

(どうして、気づけなかった……)

あれは、ただの眠れない夜じゃなかった。

 本当は──眠りたくなかったのか、起きていたくなかったのか。

鞄を掴み、レストランを飛び出す。

 深夜の空気が鋭く肌を裂き、肺を刺す。

タクシーを探す余裕もない。

 革靴のまま、全速力で夜の街を駆ける。

(何をしていたんだ、俺は……)

病院に戻って理名と向き合いたい──

 その一心で聞き込みを続けていたのに、
本人の叫びに、ずっと気づけなかった。

(俺が……俺が守るって、言ったのに……!)

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