君の隣
涙が込み上げそうになるのを、ぐっと堪えた。

「……どうして言わなかったの?」

「言ったら、きっと理名、無理に笑って“ありがとう”って言うだろ?
 
そんなの、余計に辛くさせるって思ったんだ。

 でも、ちゃんと伝えなきゃいけないなって思った。

 これから先、“ふたりで”進んでいくって決めたから」

理名は、ゆっくりとその手に自分の指を絡める。

「……ありがとう、拓実。

 今、こうして聞けてよかった。

 ひとりじゃないって思えるだけで、なんだか、ずっと気持ちが軽くなった」

 沈黙の中、ふたりはしばらく手を繋いだまま、静かな時間を共有していた。

 外では、風が高く鳴っていた。

 「来週、朱音先生ともう一度ちゃんと話してみる。

 ホルモン療法が落ち着いたタイミングで、少しずつ、次のステップを考えたい」

「うん。

 俺も一緒に行く」

 ふたりで重ねる未来のために。
その歩みは、ゆっくりでも確かに始まっていた。

 
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