君の隣

心の揺れ

ホルモン療法が始まって3ヶ月。

副作用は波のように続いていたが、理名の表情には少しずつ前を向く力が戻ってきていた。

それでも、体は本調子ではない。

頭痛やだるさ。

不意に感情が揺れる日もある。

 それでも彼女は、白衣を着て、変わらぬ顔で外来をこなしていた。

──それが「医師」としての矜持。


 「今月から、タイミング法を始めましょう」

朱音の言葉は、優しくも現実的だった。

「基礎体温と排卵検査薬を併用して、排卵のタイミングを見計らいます。

 これは“第一歩”にすぎないけれど、大切なステップです」

理名は静かに頷いた。

 
基礎体温を測り、スマホのアプリに記録をつける朝。

 朝イチの数値で一喜一憂しながら、理名は表情に出すまいと努める。

「どうだった?」

 寝起きの拓実が、まだ眠そうな顔で聞いてくる。

「……うん、まあ、誤差かな。

 上がってるような、そうでもないような」

「“まあ”って言うわりに、眉間にシワ寄ってるよ」

「クセよ、クセ」

 言ってから、ぎこちなく笑う。

 

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