君の隣
数日後。

朱音から「今夜がタイミングかも」と連絡が来た夜。

 理名はいつものようにシャワーを浴びた。

 淡々と家事をこなし、なにげない顔で拓実と並んでソファに座った。

テレビではバラエティ番組が流れている。

「なあ、理名」

 拓実がリモコンの音量を下げた。

「……どうしてそんなに、“いつも通り”にしようとするの?」

理名は、手に持ったマグカップをぎゅっと握った。

「だって、“特別”にしてしまったら、できなかったときに……すごく、しんどくなるから」

それは、嘘ではない。

 けれど──本当の理由は、もっと脆い。

「私は医者だから、“排卵日=タイミング”って、理解はしてる。
 でも、心がそれに追いついてないっていうか……

  “望まれる妻”とか、“ちゃんとした患者”でいなきゃって思ってるのかも」

自嘲気味に笑う彼女を、拓実は黙って見つめていた。

 そして、言った。

 
「理名は、“ちゃんとしてる”よ。

  ……でもな、今日だけは、もっと“自分の気持ち”で動いていいんじゃないか?」

「……え?」

「医者でも、患者でも、妻でもなくて。

 ただ“理名”として、俺と向き合ってほしい。

 できるかどうかより、ふたりで歩いてるって、ちゃんと感じたいんだ」

 

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