君の隣
──このドレス姿を、父にも見せたかった。

 きっと、何も言わずに涙を流して、 「綺麗だな」って、笑ってくれたはずなのに。

 もう、その言葉は届かない。

 拓実の優しさが、今の自分を包み込んでくれる。

 心の奥では、父の不在が静かに疼いていた。

 涙が止まらなくなった。

 拓実の言葉に揺れた心。

 父がいたらという寂しさ。

 ふたつの想いが重なって、理名の頬を濡らしていく。

 拓実は何も言わず、ただそっと彼女を抱きしめた。

 彼の腕の温もりに、ただ身体を預けて、しばらく甘えていた。

 その日の夜。

「もう一回だけ、治療、受けたい。
ダメ、かな?」

「そんなわけない。

 理名。

 君の決意を、いつでも尊重するよ」


そう言って、理名の頬をそっとなぞった拓実の指先が、耳の後ろから髪を撫で、首筋へ滑っていく。

久しぶりの感触に、身体が跳ねた。

「理名。

……ほんとうに、愛してる。

全部、触れて確かめたい」

低く、熱を帯びた声に、理名の身体が微かに震える。

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