君の隣
「……私もね、どこかでずっと怖かったの。

拓実の言葉を聞いて……

 もう、逃げなくていいって思えたの。

拓実が隣にいるから。

 もしまた、治療がダメでも、怖くないよ」

「ありがとう」

唇を重ねるのは、もう数え切れないほどになった。

 それでも、触れるたびに心は熱くなる。

「ねぇ、拓実……また、こんな朝を何度も迎えたいね」

「うん。

 何十回でも、何百回でも。

 ──ずっと隣で目覚めたい。

何なら毎日、こんな感じがいいな」

「……毎日は、ちょっと困るかな」

言葉よりも深く、視線が重なって、指先がそっと絡み合う。

 シーツの下で優しく触れるぬくもり。

恋人のそれではなく──
夫婦としての、穏やかで確かな絆だった。

< 173 / 216 >

この作品をシェア

pagetop