君の隣
理名が小さく笑いながら囁く。

「……もう少しだけ、このままでいてもいい?」

「もちろん。

 今日も、君を甘やかすって決めたから」

「ふふ……。

 じゃあ、あと10分だけ、ぎゅってして」

「10分どころか……何時間でも、こうしてたいよ」

優しい朝日と、柔らかな吐息の中で──
ふたりは、寄り添いながら未来を見つめていた。

 愛しさが、胸いっぱいに満ちていた。


シャワーの音が止んで、理名がバスルームから出てきた。

 タオルドライしたばかりの髪にアイロンを当てる。

 白衣の下に着るブラウスのボタンを留めて、リビングへ戻った。

拓実はすでにキッチンで、コーヒーを淹れていた。

 理名の好みに合わせて、ミルクはほんの数滴。

「……準備できてるよ。

 あとでパンも焼くね」

「……ありがとう、拓実」

 理名はそっと彼の背中に寄りかかる。

「今日も忙しい?」

「うん。

 血液内科、午前にカンファ2件。

 その後は移植後フォロー。

 あと……理名が診た呼吸器の患者さん、俺の方でも経過確認する予定」

「あ、そうなの?

 私も午前中にCTと気管支鏡が入ってる。

 午後は肺高血圧の新患」

「じゃあ……今日も、バタバタだな」

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