君の隣

希望の芽

わずかに緊張を含んだ声。


「力、抜いてね」 

膣内に、器具が装入される。

 ディスプレイに理名の子宮と卵巣が映し出される。

 朱音の手がプロのそれとして動きつつ──ふと、口元がやわらぐ。

「……うん。

 今回は、きれいに育ってる。

 内膜もふわふわしてる。

 これなら……タイミング、悪くないかも」

「……ほんと?」

 思わず、理名の目に涙がにじむ。

 言葉にできないほどの安堵が、胸の奥から湧いてきた。

「ねえ、理名」

 朱音がモニターから目を離して、真正面から彼女を見つめる。

「今は、医師じゃなくて、患者のあなたに伝えるわ。

 ……大丈夫。

 あなたの身体、ちゃんと応えてる。

 ちゃんと、生きようとしてる」

理名は唇を噛み、目を伏せる。

 身体の芯に届いた優しい言葉。

喉の奥がきゅうっと締めつけられるようだった。

「ありがとう……朱音先生」

 絞り出すように言って、彼女はタオルで目元を押さえた。

その涙は、不安だけじゃない。

 確かに感じた“希望”の温度が、心の奥をあたためていた。


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