君の隣
そして──夜。

湯上がりの肌に、夜風が心地よく触れる。

 掛け布団の上、ふたりは浴衣を脱ぎかけたまま、絡み合っていた。

「……理名、見せて?」

拓実がそっと、理名の髪をかき上げ、首筋に唇を落とす。

 その舌先は、ゆっくりと、やさしく、丁寧に──

 まるで“治す”ように触れ、愛撫していく。

「ん……たくみ……あっ……」

喉奥からこぼれる甘い声。

 理名の手が、拓実の背に縋るようにまわる。

湯気をまとったように熱い肌。

 その上を、拓実の掌が這い、指先がなぞる。

 そのたび、理名の身体はびくりと小さく震えた。

「……もっと触れて、いい?」

「……うん。
 ……来て、拓実」

その一言に、拓実の瞳が深く染まる。

ふたりはゆっくりと結ばれた。

 何度も、何度も、確かめるように──

 深く、ゆっくり、でも止まることなく重なる体温。

キスの合間に、囁かれるのはお互いの名前だけ。

 耳元で響く「好きだよ」「愛してる」の言葉たち。

 理名の目尻に、うっすらと涙が浮かぶ。

「大丈夫……?」

「幸せすぎて……どうしよう」

髪を撫でる手が、喉元に落ち、肩を伝う。

 理名のすべてを、愛し尽くすように、拓実は丁寧に抱いた。

ふたりの間に流れてきた、時間のすべてを埋め合わせるような、静かなで濃密な夜だった。


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