君の隣
──あの日。
朱音が、高沢 輝(たかざわ あきら)という青年を初めて『意識した』。

それは、大学3年の実習中のことだった。

産婦人科、救急、内科──

それなりに忙しいローテートをこなしていた。

毎日があっという間だった。

そんな日々がむしろ、心地よかった。

 朱音はある日、脳神経外科の病棟で一件の急患に立ち会った。

原因は《脳動静脈奇形(AVM)》。
 
――未破裂のまま気づかれにくく、ある日突然命を奪う可能性のある疾患だった。
 
 ──その夜も、突然の発作だったという。

 患者は、大学一年に上がったばかりの高沢 輝《たかざわあきら》の実姉だった。

処置は尽くされたが、彼女は意識が戻らないまま亡くなった。

病室の前で泣き崩れる彼の姿が、朱音の視界に焼きついて離れなかった。

 感情を押し殺そうとするほどに、滲んでしまう脆さ。

 そして、深く突き刺さるような静かな涙。

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