君の隣
それからだった。

 やたらと大学内で、高沢とすれ違うことが増えたのは。

 図書館の静かな空間。

 朱音が手を伸ばした本に、偶然彼の指も触れた。

 目が合い、彼が小さく息をついた。

 「……すみません、先輩。

 もしよかったら、俺がコピー取りますよ。
 待っててください」

 その声は低く、照れくさそうで、でもどこか誠実だった。

 カフェで再び顔を合わせると、彼は一歩踏み込むように話しかけてきた。

 「先輩、今日は何を勉強しているんですか?」

 朱音は一瞬照れながら答える。

 「婦人科の実習の準備よ。
 
初めてで不安もあるけど」

彼は少しだけ笑って言った。

 「先輩なら、きっと大丈夫。
 応援してます」

 気がつけば──彼を目で追うようになっていた。

 
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